2017年3月1日水曜日

疑惑の音


第2組曲において、このところ頭に引っかかっている「疑惑の音」がある。それは、クーラント、第24小節の終わりから2番目の音である。普通これはアンナ・マグダレーナ及びC資料、D資料に従ってFで弾かれる。しかしケルナーではGなのである。

 アンナ・マグダレーナ(C・D資料も同じ):


 ケルナー:

Fでも何の問題もないように思われる。それゆえ今まで特に議論されることもなかった。しかし第24小節はそれまで調があちこちさまよった挙句、やっとニ短調の並行調であるヘ長調に落ち着いたところである。しかしそこでFを弾いてしまうと、せっかくたどり着いたのに、あっという間に元のニ短調に戻ってしまうのだ。ここはぐっと我慢して、第26小節でやっとニ短調にたどり着いた方が、主調に戻ったことがより強く感じられる。

そこで注目して欲しいのが下の図でちょうどその真下にある、第27小節の終わりから2番目のGの音である。


もし未だにこの音をFで弾いている人がいたらすぐに改めること。それはパリ初版譜(1824年)からずっと引き継がれている誤りである。これはすべての筆写譜が一致してGなのである。この第27小節でも同じことが言え、ここでFを弾いてしまったら一瞬ではあるがニ短調の和音が聞こえてしまい、第29小節でニ短調にたどり着く達成感が失われる。

この四角で囲まれた2つの場所を見ると、ちょうどEとDの音がオクターヴ下にあるか上にあるかの違いだけであることがわかる。そしてどちらも次の小節はドミナント7(属7)の和音である。つまりこれらの2つの部分は対応しているのである。

ぼくとしては次の図のような和声進行を考えている(赤い枠の中)。ついでだからクーラント後半全体を和声要約してみた。この曲を把握するのに大変役立つと思うので、ぜひ鍵盤楽器で弾いてみてほしい。


「疑惑の音」はアンナ・マグダレーナのミスで、それをC・D資料が受け継いだ可能性が高い。

しかし考えようによっては、パリ初版譜の校訂者、ノルブランは鋭かったのかもしれない。第24小節がFになっているからこそ第27小節もFの方が自然に感じられたのだろうから。

自己評価 G ★★★★☆ F

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