ちょっと大げさなタイトルではあるが、20世紀は、1929年にアレクザニアン(Diran Alexanian/1881ー1954、アルメニア出身のチェリスト。パリのエコールノルマル音楽学校などで教えた)がアンナ・マグダレーナ・バッハ(以下AMB)の筆写譜付きの楽譜を出版したことにより、筆写譜というとAMBということになり、AMBに偏重してしまった。むしろ19世紀のほうが、いろいろな資料に対して公平な視点を持っていたとも言えるのである。
さてその一つの例であるが、
第2組曲のジーグの第28小節、最後の音は、ヴェンツィンガー、フルニエ、トルトゥリエ、ジャンドロン、ヘンレなど、20世紀のほとんどの楽譜が、AMBによりB♮を採用してしまっているが、これはおそらく誤りであろう。
ケルナー及びC資料、D資料はEとなっており、これによってD-E-Fという滑らかな上行する線を描いている。
ケルナー:
C資料:
D資料:
この箇所と並行するのは第64小節であるが、それに続く小節(第65小節)が第29小節とは同じではない。 第29小節はG♯とFの減7度が8分音符で同時に弾かれるが、第65小節ではC♯とB♭の減7度が2つの16分音符に分けられている。このため後者ではG-E-C♯という下行する線を描くほうが自然になるのである。
パリ初版譜(1824年)、ドッツァウアー(1826年)、グリュッツマッハー(1865年)、旧バッハ全集(1879年)、クレンゲル(1900年)といった、ほとんどの19世紀の出版譜がEを採用している。
ドッツァウアー:
旧バッハ全集:
ところで、おもしろいことに何人かのチェリストは次のように演奏している。
これは確かにAMBに疑問を感じているという点では正しいのだが、この解決法は正しくないだろう。これでは結局同じことを2回繰り返すことになってしまう。しかし作曲家は、より曲を興味深くさせるために、しばしば同じことを繰り返すのを避けるものなのである。
自己評価 E ★★★★★ B♮
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